いろいろなマーケティングの知識を自社の集客やセールスに取り込んでみたが、顧客の行動と噛み合わなくて、空振りしている気がする・・・
とお悩みの方へ。
成果を出すためのマーケティング手法はいろいろありますが、顧客との結びつきが今ひとつだと感じるのであれば、施策が実際の顧客の行動とズレている可能性があります。
そうしたズレを修正するには、カスタマージャーニーを作ってみるとよいかもしれません。
顧客の行動を点でとらえず、線でつなぐように時系列化することで、適切なタイミングに適切なメッセージを発信することができるようになります。その設計図がカスタマージャーニーです。
カスタマージャーニーを作り、一貫性を持ったマーケティング施策を打ち出し、成果につなげていきましょう。
本記事ではカスタマージャーニーの基本的な説明と作り方を解説します。
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、直訳すると「顧客の旅」です。理想の顧客のブランド体験を「旅」に例えた言葉で、商品・サービスの認知、購入、再購入する体験を時系列でビジュアル化した設計図です。
カスタマージャーニーを作ることは、顧客視点になるということ。旅にはスタートからゴールがあります。その旅を通して、最終的に顧客はどのような理想の未来を手に入れることができるのかをビジュアル化します。
時系列にしておくことで、顧客とのタッチポイント(接触機会)を把握することができます。そうすれば、適切なタイミングに適切なメッセージを伝えることができ、マーケティングの成果を上げることができるのです。
現代は顧客の行動を把握することが難しくなりました。技術の発展により、たくさんのデバイス、情報源を使って瞬間に情報にアクセスできるようになったからです。
情報入手手段の多様化から、顧客は行動の選択肢をどんどん広がっています。一昔前の企業側の一方的な情報提供で顧客が意思決定していた時代は終わり、今は顧客が主導権を握っているのです。
つまり現代では顧客が企業に期待する体験を企業側が作り出せるのかどうかが、ビジネスの成功を左右する鍵となるのです。
カスタマージャーニーを作ると、顧客をより深く理解できるようになります。また、自社内で共通認識を持てるようになるため、マーケティング施策の立案・実行も迅速に行えるようになります。
カスタマージャーニーの役割は顧客行動の答え合わせ
前項で解説した通り、顧客行動は多様化しており、予測が難しくなっています。企業側が見落としていた顧客の行動により、成約を逃してしまうことがあります。
あるオンラインコミュニティの例です。
そのオンラインコミュティは30代〜60代の手芸好きの女性が集まる場所です。メルマガ配信を通じて入会の案内を送り、1ヶ月間の無料試用ののち、本入会してもらうというシステムでした。
この年代でも十分使い慣れているLINEに近いアプリを使用して、ITに詳しくない女性でも使いこなせる配慮をしていました。
主催者側としては、無料試用期間にしっかりと歓迎することで慣れ親しんでもらうことができれば、スムーズに本入会すると考えていたのです。
ところが、コミュニティーに慣れ親しんで本入会確実と思っていたメンバーのうち、数人が同じ理由で本入会を断りました。
断った理由を後に確認したところ、
「参加する気満々だったのですが、夫に『(コミュニティアプリの)夜中の通知音がうるさい』と言われたので、やめることにしました」
という回答があったのです。
主催者はこの行動を予測していませんでした。この結果から分かったことは、
・アプリの通知音をスマホの設定で切ることができるという発想がない
・スマホの通知音オフの操作方法を知らない
・とても欲しかったものでも、夫の一言で簡単に購入を断念する
このように、顧客は企業側が想定していなかった行動をします。企業はそのギャップを埋める施策を打っていく必要があります。
そのギャップを埋めていくためにカスタマージャーニーを作るのです。カスタマージャーニーがあると、実際の顧客の行動と答え合わせが可能になります。
カスタマージャーニーの作り方7つのステップ
カスタマージャーニーでは横軸に「ステージ」を取り、縦軸に次の4つを取ります。
・顧客行動
・タッチポイント
・行動に対する感情の変化
・改善案
それぞれの欄を埋めていくのがカスタマージャーニ作成の作業となります。
本項では、カスタマージャーニーの作り方を7つのステップで解説します。
STEP2:ペルソナを設定する
STEP3:顧客の行動をアウトプットする
STEP4:顧客の行動をステージ化する
STEP5:顧客とのタッチポイントを明確にする
STEP6:顧客の感情の移り変わりを洗い出す
STEP7:改善案を考える
自社内で時間をとって、集中してカスタマージャーニーを作成してみましょう。圧力や批判がない状態で自由な発想ができる環境を整えることが大切です。また、ホワイトボードや模造紙、付箋紙などを使い、想像力を最大限活用できる工夫もおすすめです。
STEP1:カスタマージャーニーのテーマを決める
まずは、カスタマージャーニーの対象範囲を決めましょう。
新規問い合わせについてなのか、特定の商品・サービスなのかなどです。対象とする範囲によって集める情報や対策が異なりますので、土台をしっかりと設定しておきましょう。
商品やサービスは今あるものでもよいですし、開発中のものでもOKです。自社内の人気商品について、オンラインストアについて、苦戦している商品についてなど、切り口はいろいろあります。
対象範囲を決めたら、顧客(ペルソナ)の旅となるスタートとゴールを決めましょう。
【例】
商品・サービス:現在開発中の製造業(中小企業)向けWEB集客支援・代行サービス
スタート:WEB集客には興味はあるが、具体的な行動はできておらず、自社と接点がない状態
ゴール:集客支援・代行サービス利用の1年契約を行い、追加サービス利用へ前向きな接点を持った状態
STEP2:ペルソナを設定する
カスタマージャーニーには理想の顧客像(ペルソナ)が必要です。
ペルソナは「40代未婚女性」のように、ぼんやりしたものではなく、ひとりの人物像をはっきりさせます。小説の登場人物を決めるイメージです。
理想の顧客像の顔と名前、細かい情報を隅々までイメージできることが大切です。そういう意味では実在の人物が分かりやすいですね。架空の人物を作り上げることもできますが、自分の思い込みが入ると人物像がブレてしまうことがあるので、難易度が高いです。
理想の顧客像の名前、性別、年齢、職業、勤続年数、居住地、休日の過ごし方など、データ的なことを書き書き出してみます。
名前は重要です。名前がついていることで、イメージがとてもリアルになるからです。「田中太郎」という名と、「40代会社経営者」では、頭に浮かぶイメージがまったく違いますよね? そのリアルなイメージがペルソナにはとても大切です。
STEP3:顧客の行動をアウトプットする
次に、縦軸の1つめ「顧客行動」を洗い出しします。スタートからゴールまでの間に、顧客がどんな行動を取るか、順序問わず、思いつきでどんどん書き出していきましょう。
1つの付箋に1つの行動を書き出す要領です。
【例】
商品・サービス:現在開発中の製造業(中小企業)向けWEB集客支援・代行サービス
スタート:WEB集客には興味はあるが、具体的な行動はできておらず、自社と接点がない状態
ゴール:集客支援・代行サービス利用の1年契約を行い、追加サービス利用へ前向きな接点を持った状態
ペルソナ:45才 高級ノート製造業社長(2代目) 田中太郎
「そろそろWEB集客を取り入れたいと思い、ぼんやりとインターネット検索をする」
「検索画面に弊社広告が出たので、なにげなくクリックする」
「WEB集客のセミナーがあることを知り、参加申し込みをする」
・・・などです。
行動はできる限りたくさん書き出しましょう。そうすることで、後のステップで行う顧客との接点や感情の洗い出しがスムーズになります。
STEP4:顧客の行動をステージ化する
STEP3で書き出した顧客の行動をステージ化します。
洗い出した行動をステージにグルーピングしていきます。ステージには名前を付けていきましょう。
たとえば、「WEBで検索する」「WEB集客について調べる」などは情報収集ですから、「リサーチ」と名付けるイメージです。
「セミナーへ参加」は自社との「出会い」というステージに当たりますし、他にも、スタッフとの「相談・検討」というステージもあるかもしれません。
ステージに名前をつけ、スタートからゴールまでの時系列に並べます。そして、行動をグルーピングしていくと、ペルソナの態度の変化が浮かび上がってきます。
行動をステージに分けたら、俯瞰して眺めてみましょう。ペルソナになった気分で、欠けている行動やステージがないか見直し、必要があれば追加します。
STEP5:タッチポイントを明確にする
顧客行動のステージ化ができたら、次は「タッチポイント」(接触機会)を埋めて行きましょう。
タッチポイントとは、テレビCM、雑誌、WEB広告、WEBサイト、チラシ、知り合いの口コミなどの接点です。
顧客はこうした接点を通じて情報収集をし、決断をしていきます。
顧客行動を眺めながら、顧客視点でどのような接点があるかを書き出してみましょう。接点を洗い出してみると、自社が今まで思いつかなかった新しいチャネルに気づくこともあります。
STEP6:顧客の感情の移り変わりを洗い出す
顧客の行動と接点を洗い出したら、次は感情の移り変わりに目を向けます。
顧客はメディアなどを通じて情報に触れる中で、いろいろな感情を持ちます。感情変化の欄にはペルソナの感情を書き出していきましょう。
顧客の行動に伴って生じる感情に対し、自社でどのような施策を打てるのかを考えることができます。
「お金がどのくらいかかるのか心配だな」「社員に反対されて面倒かもしれない」などネガティブな感情もありますし、「競合に勝つことができるかもしれない」などポジティブな感情もあるでしょう。
ネガティブな感情が起きる場合には、それを極力減らす施策を打てると、顧客の体験をよい方向へ導けます。また、ポジティブな感情への施策は、さらに喜びの多い体験を生み出せます。
STEP7:改善案を考える
これまでのステップでは、顧客視点に立ってきました。STEP7では、自社視点で顧客体験を良くするための改善案を考えます。
顧客行動、接点、感情を眺めると、自社ではどのような改善をすることができるかを発見することができるようになります。
今まで書き出したものを縦軸、横軸それぞれ何度もながめながら、顧客のストレスを減らす、喜びをもっと大きくするには何ができるのかを考えてみるのがコツです。
ここまでのステップを社内で取り組むことで、社内の部門連携が高まります。また、共通認識をもつことで、意思決定の迅速化も可能になります。
ここまで終わったら、取り組むべきことを決定し、自社で実践に移していきましょう。
カスタマージャーニーを作るときの注意点
カスタマージャーニーを作るときは、次の3つに注意しましょう。
1)自社や作成者に都合のよい設計図になっていないか
顧客視点で考えることが分かっていながら、つい自社や作成者の先入観、期待などが強く出てしまうことがあります。
自由な発想とともに、これまでの顧客データ、リサーチなどをしっかりと活用して作るようにしましょう。
2)最初から完璧を目指さない
初めてカスタマージャーニーを作る場合、やってみると分かりますが、スムーズに進まないことがあります。
顧客情報を集めてくることが重要ですが、情報が少なかったり、質が悪かったりすると精度のよいものを作ることができません。
最初からお手本のような完璧なものを作ろうとせず、まずはシンプルに取り組んでみましょう。
上にも書きましたが、カスタマージャーニーは顧客行動の答え合わせをするようなものです。一度作ったものと実際の顧客行動を照らし合わせながら、どんどんブラッシュアップしていけばOKです。
3)定期的にブラッシュアップをしていく仕組みにしておく
カスタマージャーニーは作っただけでは意味がありません。よりよい顧客体験を提供するために打ち出された施策を試していくと、時間の経過とともに合わなくなることは十分考えられます。
そうした変化をカスタマージャーにどんどん反映させ、ブラッシュアップすることで大きな成果につながっていくということを覚えておきましょう。
定期的な見直しができるよう、社内に仕組みを作っておくことをおすすめします。
まとめ
カスタマージャーニーは理想の顧客がブランドを通して商品・サービスの認知、購入、再購入する体験を時系列でビジュアル化した設計図です。そうすることで、顧客に良いブランド体験を提供することが可能になり、成果アップにつなげていくことができます。
そのためには顧客情報の収集、発想力、柔軟性も必要となります。日頃から顧客の話をよく聞いておくようにすると、カスタマージャーニーの作成はスムーズになるでしょう。
最初はシンプルなものでも構いません。実際の顧客行動と答え合わせをしがら、定期的に見直し、ブラッシュアップさせていきましょう。